「経済古典は役に立つ」 再読 --歴史的経済思想家9人が織りなす資本主義の本質、投資は経験ではなく歴史から学ぼう!!

竹中さんが、経済学史および経済学の古典を紹介・解説してくれている一冊です。
新書ですが、非常に丁寧な解説があり、分かりやすいです。これ一冊で経済学の歴史がわかった気になれるので、非常にお得です。
3年ほど前に読了したのですが、いい本なので再度読んでみました。

この本では経済の歴史を振り返りながら、経済思想と経済政策は明快に区別して考え、特に経済政策はその時々の国の状況にあった政策を打つ必要があると説いています。
経済のシステムは高度な非線形の場ですから、思想だけではうまくいかない場合が多く、柔軟に政策を展開していく必要があります。
著者の竹中平蔵さんは、御存知の通り小泉政権の頃、規制撤廃の小さい政府を標榜する政策を打ってきました。
今の日本の政府が大きくなりすぎて、規制が蔓延る国だからこそ、敢えてこのような政策を押していたのかもしれませんね。

さてさて、この本に出てくる登場人物は、

  • アダム・スミス
  • マルサス
  • リカード
  • マルクス
  • ケインズ
  • シュンペーター
  • ハイエク
  • フリードマン
  • ブキャナン

の9名です。

それぞれの方々の業績やその時代の課題としては、
①アダム・スミス
 「国富論」を著作
 課題1 1688年に起きた名誉革命により産声を上げた民主主義の裏で、非常に社会秩序が乱れていた。この貧困と失業をどう解決していけばいいのか、という課題。
 課題2 英蘭戦争、7年戦争後の破綻していた財政をどう立て直すのか、という課題。
 課題3 植民地であるアメリカをどうしていくのかという課題。アメリカに課税をするという決断が、その後の1773年ボストンティーパーティー事件を生みました。
 課題4 輸出を推奨し、輸入を規制する「重商主義」をどうしていくか、という課題。

 以上の4つの課題を踏まえて、

  • 神の見えざる手に委ねる
  • 労働の重視→労働の質の向上→効率性・生産性向上→分業
  • 経済の成長は、資本蓄積・人口増加により継続可能
  • 重商主義批判
  • 植民地の独立支持

と論理を展開していきました。

②マルサス
 「人口論」を著作

  •  人口は幾何級数的に増加
  • 一方、耕作地は算術級数的にしか増加しない

ことから、将来の食料不足を予言しました。
暗い未来の予想ですね。

③リカード
 「経済学および課税の原理」を著作
 現代の経済学に通じる、地主、資本家、労働者という概念を打ち出しました。
 この中で、地主が唯一の受益者になりうるという論を展開しました。
 労働者はぎりぎりの生活しかできず、資本家は競争が激しく没落していく中で、地主のみが差額地代で儲けるという論理でした。

④マルクス
 「共産党宣言」を執筆。
 「ヨーロッパに幽霊が出る。 ---共産主義という幽霊である」という文章は有名。
 労働価値説において、労働者は搾取され利潤低下していくことにより資本主義は崩壊する、という論理を展開しました。
 最終的には共産主義が破綻しましたね。

⑤ケインズ
 マルサス、リカード、マルクスと資本主義への懐疑的な論理は実現せず、資本主義は栄えていきました。しかしながら、ここで有名な1929年大暴落が発生し、ジョン・メイナード・ケインズが登場します。成功に見えた資本主義にも危機が訪れます。
 ちょっと前に、大暴落1929 (日経BPクラシックス) [単行本]ジョン・K・ガルブレイス (著), 村井 章子 (翻訳)を読みましたが、これはまたいつか書評します。
 ケインズは、経済活動の中で必然的に起きる需給ギャップが発生している時には、政府が積極的な支出で補い正しい状態に戻す政策を展開します。現在の「財政政策」ですね。今の日本の財政悪化とも密接に関わってくる政策ですので、知っておいて損はないと思います。
 経済学を学んでいると、IS-LMモデルまたはIS-LM-BPのマンデル=フレミング・モデルとして登場します。 財市場と貨幣市場とが均衡する利子率と経済全体の所得水準の点を求めるものですが、財政支出が国民所得を押し上げる効果を説明したモデルです。
 ちなみに、①小国で為替の影響を世界に与えない開国モデルで、②変動相場制、さらに③資本異動が完全自由の場合は、利子率の差が資本移動によってキャンセルアウトされることにより、財政政策は無効とされています。よって、金融政策のほうが有効というのが一般的な基礎知識です。

 このモデルは大暴落で痛手を負ったアメリカ経済を効果的に立てなおしましたが、以下の問題もはらんでいました。

  • エリートは間違わないという上から目線の政策であり、本当にエリートは間違えないのか?やはり「アダム・スミスの神の見えざる手」に反しているのではないかという問題。
  • 財政支出は出動は容易だが、畳む方(今でいう出口戦略)が難しいのではないかという問題。実際日本では財政支出は膨らむ一方で、今後の経済破綻・日本の没落は避けられない状態である。
  • 財政支出が利子率の上昇を招き、民間の資金需要が抑制、つまり民間の経済活動が減じられてしまう、「クラウディングアウト」の問題もこの頃盛んに議論されました。

 結局、長い歴史を見てケインズ政策をまじめに継続的に行っているのは日本だけでして、その評価は今後出るということになります。評価・結果は出ているとも。

⑥シュンペーター
 新結合という概念を用いて、資本主義における起業者、銀行家の役割を明確にしました。また、「イノベーション」が経済活動の原動力になっていることを指摘し、ドラッカーなどに影響を与えました。

⑦ハイエク
 私の一番好きな経済学者です。「隷属への道」を著作しました。
 社会主義と全体主義は本質的には根っこで繋がっており、それらを「集産主義」と呼び批判しました。これに通じる、ケインズ的な中央政府での施策を嫌い、徹底的に批判しました。その原点は、経済活動は膨大な情報を包含しており、ORなどの手法が完璧には通用せず、政府が市場の代わりをするなどは不可能である、という論理でした。

⑧フリードマン
 自らを「急進的自由主義」と呼ぶほどの自由主義者です。政府の経済施策を徹底的に批判しました。
 1970年台の世界的スタグフレーション(今に似てますね)の状況において、1980年頃からサッチャーリズム、レーガノミクスなどの、フリードマンが主張する小さい政府の施策が登用されました。
 フリードマンらしい政策提言として、「教育バウチャー」「負の所得税」が挙げられています。
 また、フリードマンはマネタリストとして有名であり、政府がマネーについて判断するのではなく、マネーの供給ルールを明確化すべきだと説き、有名なkパーセントルールを提言しました。

⑨ブキャナン
 「公共選択論」において、政治家の行動様式を指摘しました。
 政治家は、自分の選挙民のために税金を使いたがり、また、選挙民が嫌う増税をしたがらないという単純明快な論理を暴きました。

ダイジェスト紹介しましたが、新書本で厚さは薄いのですが、各人・各思想・各政策とも詳しく解説もされています。
経済思想に興味のある方は是非是非ご一読を。

経済古典は役に立つ (光文社新書) [新書] 竹中平蔵 (著)