「定量分析実践講座―ケースで学ぶ意思決定の手法」 再読 --定量分析の定石をケースバイケースで学ぶことができる入門書

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この本は、今から9年前の2008年3月に購入した書籍です。あれから10年ほど経って再度読んでみました。
当時読んだ感想としては、眼から鱗、感動感動で、今まで読んだ本の中でベスト10に入るものです。
タイトルを見ると小難しいような気がしますが、具体的な内容でページ数も200ページほどですので気軽にどんどん読み進められます。

章立ては、
第1章 ビジネスパーソンにとっての合理的意思決定の意味
第2章 リスクのもとでの意思決定
CASE1 バス通勤
CASE2 フランチャイズの選択
CASE3 新店舗立地の検討
第3章 確実性のもとでの意思決定(1)
CASE4 桜最中販売の検討
CASE5 社員研修の実施
CASE6 冷蔵ケースの入れ替え
CASE7 冷蔵ケースの入れ替えの再検討
第4章 確実性のもとでの意思決定(2)
CASE8 資金運用
CASE9 初詣向けの仮設店舗
CASE10 店員の有効配置
第5章
CASE11 出店立地の拡大
第6章
CASE12 景気予測の購入
CASE13 店舗買収の検討
CASE14 店舗買収の決定の延期
CASE15 調理商品の取り扱いの検討
CASE16 競合との商圏争奪戦

章立ての展開としては、本書の登場人物、主役がコンビニを立ち上げるにあたってどのように意思決定をしていくかを、実際の事業立ち上げのケースに基づいて解説していく流れになっています。

で、この本の冒頭には、意思決定の3つの評価軸ということで、「合理性」「価値観・倫理観」「感情・性向」が示されています。その中で、価値観や感情は譲れなかったり、研鑽したからといってすぐに効果が出ないことを指摘しており、残りの合理性だけはある程度訓練可能なため、この合理性の部分を本書のテーマとしています。

実際、投資活動の中でもこの3つの評価軸に似たような概念があります。私のFairValueInvestmentの投資方法でも、より定量的にアプローチし銘柄選択をしますが、自分の価値観には大きく左右されます。また、最終的には欲を制御することが大事になってくるため、感情のコントロールのために仏教的な考え方を用いることがあります。
人間は感情的な動物ですので、すべてが合理的に行くわけではありませんが、当書のような定量分析の体系を理解して合理的に意思決定を実施することにより、成功確率を上げていくことができると思われます。

次に、内容ですが、意思決定に関する大事な事柄はかなりフォローされています。
第2章では主にリスクとリターンの関係。その中でもリスクの定義がされています。リスクとはバラつき具合のことであって、統計的に1標準偏差のことです。また、統計的に標準偏差を用いているということは、母集団が正規分布することを前提としています。投資をされている方でこのリスクの定義を理解していない人が非常に多いと感じます。リスクとリターンがトレードオフである投資の世界において、リスクの定義を理解していないのは致命的であり、身の破滅をもたらせます。そういう意味で本書は冒頭からベーシックなリスク・リターン関係を定義しているのは正統的なアプローチであると感じます。
また、この章では、母集団を特徴づける指標も説明しています。みなさんも平均値はよくご存知だとは思いますが、中央値(メジアン)や最頻値(モード)は接する機会は少ないかもしれません。例えば、平均年収などという数値は少数のお金持ちが値を上げますので、グラフで分布を見ると特徴を表しているとは思えない数値になることが多くあります。その際には、中央値を使うなどして見ていくことが必要です。
投資とは確率の世界であり、より成功確率を高めるためには、統計的な考え方、見方を身につける必要があるでしょう。

第3章以降は、定量評価の具体的な方法を示しています。
キーワードとしては、機会費用、サンクコスト、NPV、ディシジョンツリー、ベイジアン、リアル・オプションなどなど。これらキーワードを聞いて瞬時にきちんと答えられる人は、投資においても成功する確率が格段に上がると思います。
例えば、サンクコストは埋没コストと呼ばれるものであり、概念としては過去に投資したコストは将来の意思決定に影響を与えないというものです。当書では大型冷蔵庫を再購入する事例が書かれていますが、買い替えの場合(古いものを並行利用できない場合)は、将来のキャッシュフローの現在価値の最大化が大事であって、過去の投資コストには影響を受けません。

投資や経営でこのような手法を実際に用いることはほとんどないと思いますが、概念を理解し、二者択一や三者択一の意思決定を求められた時に、より成功確率が高い方にベットできれば十分本書の概念を活かしているといえるでしょう。

最後に、意思決定や定量評価という分野は学術的にも多くの書籍が出版されていますが、当書はそのさわりの部分を平易に物語的に書かれています。
仕事の中でも感情的ではなく、より定量的に論理的に話を展開したい、その手法を知りたい方にとっては、当書はより具体的であり、実践的ですのでお役に立つのではと思います。